多くの方が所有地に賃貸住宅を建てたり、一棟賃貸マンションやビルなどを購入して相続対策を行っています。不動産の場合に「借家権割合」や「貸家建付地割合」が控除され、相続税評価額が時価よりかなり低い評価になるからです。しかし、全国的に空室が増加し、賃料相場が大幅に下落し賃貸事業の経営が厳しくなっている地域もあります。

今回は、「空室対策をやっておかないと、相続対策の効果が下がる。」というテーマです。それは、どういうことでしょうか?

説明をわかりやすくするために、事例として「地主A氏は、評価 1億円の所有地(=自用地)の上に、現金 2億円で20戸(各戸面積50㎡)の賃貸住宅を建築しました。Aさんの住んでいる地域の借地権割合は50%です。」という設定と致します。

目次

1.「賃貸物件での建物と土地」の評価方法とは?
2.「賃貸割合」とは?
3.所有者(被相続人)が死亡した時点での空室部分は控除されない?
4.「一時的な空室部分」とは?

1.「賃貸物件での建物と土地」の評価方法とは?

(1)貸家の価額 = 固定資産税評価額 × (1- 借家権割合 × 賃貸割合 )

(2)貸家建付地の価額 = 自用地評価額 ×(1- 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合 )

「借地権割合」及び「借家権割合」は、地域により異なりますので、路線価図や評価倍率表により確認してください。路線価図や評価倍率表は、国税庁ホームページで閲覧可能。
※  貸家建付地とは、貸家の目的とされている宅地、すなわち、所有する土地に建築した家屋を他に貸し付けている場合の、その土地のことをいいます。

【事例の場合で計算】

■建物 ※固定資産税評価額は、おおむね建築価格の60%程度として
[算式]2億円 × 60% × (1-30%)= 8,400万円

■土地
[算式]1億円 × (1-50% × 30%)= 8,500万円

建物+土地の合計は 1億6,900万円 ・・・① となります。
つまり、現金2億円 + 土地1億円=3億円 ⇒ 1億6,900万 ※評価額が1億3,100万円の減額になった。

(参考)よく聞かれる「借金してアパートを建てると相続税の節税になる。」は、上記の式から分かるように「借金をしてもしなくても、どちらでも節税になる。」ということが結論です。

2.「賃貸割合」とは?

「賃貸割合」は、貸家の各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分をいいます。)がある場合に、その各独立部分の賃貸状況に基づいて次の算式により計算した割合をいいます。

賃貸割合当該家屋の各独立部分の床面積の合計のうち課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計 ÷ 当該家屋の各独立部分の床面積の合計

※この算2における「各独立部分」とは、建物の構成部分である隔壁、扉、階層(天井及び床)等によって他の部分と完全に遮断されている部分で、独立した出入口を有するなど独立して賃貸その他の用に供することができるものをいいます。

【事例の場合で計算】

事例で説明すると、例えば10戸のうち、5戸が空室だった場合にはどうなるのでしょうか?

[算式](5部屋 × 50㎡)÷(10部屋 × 50㎡)= 0.5 つまり、賃貸割合は50%となります。

3.所有者(被相続人)が死亡した時点での空室部分は控除されない?

所有者が死亡した時点(課税時期)で空室があった場合には、「その空室が一時的な場合を除いて」借家権割合を控除しないこととされています。

事例で説明すると、例えば10戸のうち、土地建物の所有者が死亡した時点で5戸がたまたま3ヶ月以上空室状態で相続税の申告期限には全部満室であった場合にはどうなるのでしょうか?

■建物 [算式]2億円 × 60% × (1-30% × 50%)= 10,200万円
■土地 [算式]1億円 × (1-50% × 30% × 50%)=   9,250万円

建物+土地の合計は 1億9,450万円・・・② となります。

4.「一時的な空室部分」とは?

国税庁のホームページによると「継続的に賃貸されていたアパート等の各独立部分で、例えば、次のような事実関係から、アパート等の各独立部分の一部が課税時期(相続の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)において一時的に空室となっていたに過ぎないと認められるものについては、課税時期においても賃貸されていたものとして差し支えありません。」とされています。

(1)各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること。
(2)賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと。
(3)  空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど、一時的な期間であること。
(4)課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと。

まとめ

事例で計算した①のように、満室の場合には1億6,900万円だった評価額も、半分が空室になると②のように1億9,450万円へとなり、なんと2,550万円も上がってしまいます。当然に相続税の額も増加します。
上記のとおり「相続税の評価額は、相続発生時に不動産がどんな状態であったかで決まります。」ので、新築等で現在は部屋が埋まっていても、何十年かして実際に相続が発生した時に、部屋が埋まっていなければ、予想したほどの減額効果は期待できなくなります。日頃から空室が生じないように努力をしなければなりません。

本情報は、法律・税務・金融などの一般的な説明です。個別の具体的な判断や対策などは専門家(弁護士・税理士など)にご相談ください。

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