市街地においてしばしば見られる,複数の者が共有する私道(共有私道)について、“共有者が不明となったため、私道が修復できない”という問題が明確になってきました。
そこで、2018年2月、法務省が『所有者不明私道への対応ガイドライン』を公表しました。このガイドラインによって、どのように問題が解決されたのでしょうか?

目次

1.私道の所有形態
2.ガイドライン策定前までの状態
3.ガイドラインによる事例の一部

1.私道の所有形態

共同所有型私道の具体的な例としては,下記のような形で複数の者が私道敷を共有するものがあります。
(例)私道の沿道の宅地の所有者(①~④)が通路として利用するために私道敷を共同所有する場合(※ 沿道の宅地所有者以外の者が私道敷の共有者となっている場合もある)

2.ガイドライン策定前までの状態は?

共有の私道など、2人以上が共同で所有している“共有物”は、共有者それぞれがその物に対して“使用・収益・処分”などの権利を有しています。
そのため、民法では、各行為について以下のように定められています
・『各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる』(249条)
・『各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない』(251条)
・『共有物の管理に関する事項は、251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる』(252条)

つまり、共有の私道に変更を加える場合などは、以下の基準をもとに“ほかの共有者の同意が必要か否か”を判断します。
1.『保存行為』……共有物の現状を維持することは、各共有者が単独で行うことが可能。
2.『管理行為』……“地ならし”など、性質を変更しない範囲での利用・改良は、共有者の過半数の同意があれば行うことが可能。
3.『変更行為』……処分行為に該当するような、性質・形状などを物理的に変更する場合は、共有者全員の同意が必要。

しかし、実際の補修工事がどれに該当するかは明確化されていなかったため、事実上、全員の同意を得る必要があったのです。また、私道の補修や修繕には自治体から助成金が出ることもあります。
その際、多くの自治体で『共有者全員の同意がないと補修できない』と定めていたこともあり、共有者不明の私道では補修が滞ってしまう事態が発生していました。

3.ガイドラインによる事例の一部

これを受け、2018年2月1日に法務省が民法に則ったガイドラインを作成されました。
典型的な35の事例について、前述の『保存行為・管理行為・変更行為』のどれに該当するのか見解を示しました。
ここでは、ガイドラインに示された事例のうち、主なケースをいくつかご紹介します。

ⅰ.共有私道の一部が陥没したため、修復したい。 → 『保存行為』

各共有者が単独で補修工事を行うことができるため,②や③の共有者が補修工事を行う場合には,民法上,①の共有者の同意を得る必要はない(民法第 252 条ただし書)。
1人の判断で実行可能なため、共有者の同意を得る必要はありません。

ⅱ.老朽化した側溝(道路端の排水溝)を撤去&新設し、路面全体を再舗装したい。 → 『管理行為』

(例)L形側溝が老朽化して陥没し,段差が生じており,通行に危険が生じるなど,私道の機能に支障が生じている場合


各共有者が単独で補修工事を行うことができるため,②や③の共有者が補修工事を行う場合には,民法上,①の共有者の同意を得る必要はない(民法第 252 条ただし書)。
ただし、路面全体の再舗装ではなく、側溝付近のみの再舗装であれば『保存行為』に該当すると考えられます。

ⅲ.舗装されていない“砂利道の私道”を新たに舗装したい。 → 『変更行為』


砂利道の舗装においては,一般に,砂利を除去した上で,路体・路床と呼ばれる基盤層の上に,下層路盤・上層路盤と呼ばれる層を整備し,更にその上に基層・表層と呼ばれるアスファルト面を施工する。
○ これらの工事は,私道敷に加工を施し,アスファルト面等を土地に付合させるものと評価でき(民法第 242 条),物理的に大きな変更を行うものといえる。
○ 砂利道とアスファルト道とでは,道路としての機能が異なり得るところ,歩道から車道への変更は,道路の機能を大きく変えるものと評価できる。
○ 以上からすると,砂利道である通路をアスファルト舗装する行為は,一般に共有物に変更を加えるものであり,共有者全員の同意が必要である(民法第 251条,最高裁判所平成 10 年 3 月 24 日第三小法廷判決・裁判集民事 187 号 485 頁参照。)。
したがって,①の共有者から同意が得られていない本事例では,民法上,路面をアスファルトに新規舗装する工事を行うことはできない。
○ もっとも,本事案における各居宅と共有私道は,区分所有法上の団地に該当すると考えられるところ,区分所有法上は,団地内にある団地建物所有者が共有する土地に形状又は効用の著しい変更を伴う変更を行う場合であっても,団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議があれば,これを行うことができる(同法第 66 条,第 17 条第1項)。
○ したがって,区分所有法に規定する手続を経れば,②~⑥の共有者の同意を得て,新規舗装を行うことが可能と考えられる。
○ また,②~⑥の共有者は,不在者財産管理人等の選任申立てを行い,選任された管理人から,私道整備のアスファルト舗装についての同意を得ることにより,私道の整備を行うことができると考えられる。所在不明者も含めた共有者全員の同意が必要です。ただし、団地の場合は、区分所有法に規定される手続きを経て、団地建物所有者および議決権の4分の3以上による決議があれば、舗装を行うことが可能。)

[法務省ホームページ 参考]

まとめ

実際、どんなに綺麗な建物でも私道が、凸凹していたら売却スピードは下がります。出来れば、私道の物件は購入しない方が良いとは思いますが・・・。
ガイドライン内には、このほかにも『ガス管の補修事例』や『公共下水管の新設事例』などが紹介されています。ご参考にしてください。

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