不動産会社が分譲目的に所有していた「非線引き区域内の登記簿地目が農地(田)である土地売買の話です。農地を売買する場合には、農業委員会の許可が必要です。この不動産会社も購入時に農地法の許可を取って購入しています。なお、登記簿の地目を田のままにしていました。この土地の道路と隣地の状況は、北側の1方が道路に接しており、両側は農地、南側は水路という状況です。雑種地として宅地並みの固定資産税を払っています。地目が農地(田)なので、今回土地売買をする為には、新たに農地法第5条の手続きをしなければなりません。
そんな状況の中で購入希望者(不動産業者ではありません。)が見つかり、手続きを進めようとしていた矢先に、ある問題が発生してしまい、この問題を解決するまで話自体が中断してしまいました。
さて、その問題とは、どういうことでしょうか?そして、どうやって所有権移転・引渡まで出来たのでしょうか?
目次
1.農地の転用するための手続きとは?
2.「農地法第5条の許可が下りない」って?
3.“三方農地”って何?
4.地目を「農地以外」に変更して売却
5.法務局への申請は、「現況主義」がキーポイント!
1.農地の転用するための手続きとは?
農地転用とは、農地を住宅敷地、工場敷地、道路、山林、店舗、山林、資材置場、駐車場等、農地以外の用途に変更することを言います。農地転用には農地法の許可(市街化区域内にあっては届け出)が必要です。
● 農地転用について、、自分が所有している農地を農地以外のものにする場合には、許可(農地法第4条転用)が必要となります。
● 農地を農地以外にする目的で,売買・賃貸借等の権利を設定し、あるいは権利の移転を行うもの許可(農地法第5条転用)が必要となります。
したがって、今回の話は売買となるため農地法第5条の手続が必要となります。
2.「農地法第5条の許可が下りない」って??
農業委員会との協議の中で「この土地は、当初の用途目的(=宅地造成&分譲)でなければ、農地法第5条の手続きは出来ない。」との話でした。理由は、“三方農地”になるからとの話でした。前述したとおり売買対象地は、北側の1方が道路に接しており、両側は農地、南側は水路に囲まれている土地(※実際は、隣地は農機具置き場と荒れ地でした。)で「隣接地の登記簿の地目が農地との理由により“三方農地”に該当するから用途を変更した農地法の申請は出来ないというのです。
3.“三方農地”って何?
県庁の担当部署に問い合わせしたところ、まず“三方農地”という言葉は、法律用語ではなく俗語のようです。平成21年7月に農地法の大改正があり、農地の種類によって扱いが分かれ各市町村によって見解が違う可能性もあるため農業委員会に相談して欲しいとの回答でした。(※農地の種類と農地転用の関係については、別の機会にお伝えします。)
要するに「周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合」には、転用許可は認めないということです。具体的には・・・
① 申請に係る農地を当該申請の用途に供することが確実であること(農地法4条6項3号、5条2項3号)
② 周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがないこと(農地法4条6項4号、5条2項4号)
③ 一時的な利用のための転用において、その利用後にその土地が耕作の目的に供されることが確実であること(農地法4条6項5号、5条2項5・6号)
④ 申請に係る農地の位置等からみて、集団的に存在する農地を蚕食し、又は分断するおそれがあると認められる場合
⑤ 周辺の農地における日照、通風等に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合
⑥ 農道、ため池その他の農地の保全又は利用上必要な施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合
4.地目を「農地以外」に変更して売却
農地を農地以外の地目に変更するためには、3つの方法があります。
① 農地転用の許可を得た後に地目変更する。
② 非農地証明書を取得後に地目変更する。※非農地証明書とは、農業委員会から「農地でない。」事を証明してもらう書類です。
③ 法務局へ直接地目変更する。
5.法務局への申請は、「現況主義」がキーポイント!
例えば、農業委員会が宅地にする承諾を得ても、今現在作物を作っていたら、法務局はこの土地を畑として判断します。作物を一切作らずに原野の状況になっていても手続きは出来ません。なぜなら、「耕せば直ぐに農地に戻せるだろう。」という考え方だからです。
今回の売買では、農地法第5条の手続きは諦め現地を資材置き場にして地目変更登記を申請し無事に下りてきました。法務局で地目変更登記を申請する際には一点注意が必要です、それは、対象物件が存在する市町村の農業委員会に地目変更手続きに関しての確認連絡が入ります。その際に、農業委員会が「聞いていません。」と回答してしまうと地目変更登記は出来ません。農業委員会との綿密な打合せが必要になります。
[引用 農地法第5条第2項第1号~7号]
2 前項の許可は、次の各号のいずれかに該当する場合には、することができない。ただし、第一号及び第二号に掲げる場合において、土地収用法第二十六条第一項の規定による告示に係る事業の用に供するため第三条第一項本文に掲げる権利を取得しようとするとき、第一号イに掲げる農地又は採草放牧地につき農用地利用計画において指定された用途に供するためこれらの権利を取得しようとするときその他政令で定める相当の事由があるときは、この限りでない。
一 次に掲げる農地又は採草放牧地につき第三条第一項本文に掲げる権利を取得しようとする場合
イ 農用地区域内にある農地又は採草放牧地
ロ イに掲げる農地又は採草放牧地以外の農地又は採草放牧地で、集団的に存在する農地又は採草放牧地その他の良好な営農条件を備えている農地又は採草放牧地として政令で定めるもの(市街化調整区域内にある政令で定める農地又は採草放牧地以外の農地又は採草放牧地にあつては、次に掲げる農地又は採草放牧地を除く。)
(1) 市街地の区域内又は市街地化の傾向が著しい区域内にある農地又は採草放牧地で政令で定めるもの
(2) (1)の区域に近接する区域その他市街地化が見込まれる区域内にある農地又は採草放牧地で政令で定めるもの
二 前号イ及びロに掲げる農地(同号ロ(1)に掲げる農地を含む。)以外の農地を農地以外のものにするため第三条第一項本文に掲げる権利を取得しようとする場合又は同号イ及びロに掲げる採草放牧地(同号ロ(1)に掲げる採草放牧地を含む。)以外の採草放牧地を採草放牧地以外のものにするためこれらの権利を取得しようとする場合において、申請に係る農地又は採草放牧地に代えて周辺の他の土地を供することにより当該申請に係る事業の目的を達成することができると認められるとき。
三 第三条第一項本文に掲げる権利を取得しようとする者に申請に係る農地を農地以外のものにする行為又は申請に係る採草放牧地を採草放牧地以外のものにする行為を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと、申請に係る農地を農地以外のものにする行為又は申請に係る採草放牧地を採草放牧地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないことその他農林水産省令で定める事由により、申請に係る農地又は採草放牧地のすべてを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合
四 申請に係る農地を農地以外のものにすること又は申請に係る採草放牧地を採草放牧地以外のものにすることにより、土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあると認められる場合、農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地又は採草放牧地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合
五 仮設工作物の設置その他の一時的な利用に供するため所有権を取得しようとする場合
六 仮設工作物の設置その他の一時的な利用に供するため、農地につき所有権以外の第三条第一項本文に掲げる権利を取得しようとする場合においてその利用に供された後にその土地が耕作の目的に供されることが確実と認められないとき、又は採草放牧地につきこれらの権利を取得しようとする場合においてその利用に供された後にその土地が耕作の目的若しくは主として耕作若しくは養畜の事業のための採草若しくは家畜の放牧の目的に供されることが確実と認められないとき。
七 農地を採草放牧地にするため第三条第一項本文に掲げる権利を取得しようとする場合において、同条第二項の規定により同条第一項の許可をすることができない場合に該当すると認められるとき。
[引用 農地法第4条第6項第3号~5号]
6 第一項の許可は、次の各号のいずれかに該当する場合には、することができない。ただし、第一号及び第二号に掲げる場合において、土地収用法第二十六条第一項の規定による告示(他の法律の規定による告示又は公告で同項の規定による告示とみなされるものを含む。次条第二項において同じ。)に係る事業の用に供するため農地を農地以外のものにしようとするとき、第一号イに掲げる農地を農業振興地域の整備に関する法律第八条第四項に規定する農用地利用計画(以下単に「農用地利用計画」という。)において指定された用途に供するため農地以外のものにしようとするときその他政令で定める相当の事由があるときは、この限りでない。
三 申請者に申請に係る農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと、申請に係る農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないことその他農林水産省令で定める事由により、申請に係る農地の全てを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合
四 申請に係る農地を農地以外のものにすることにより、土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあると認められる場合、農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合
五 仮設工作物の設置その他の一時的な利用に供するため農地を農地以外のものにしようとする場合において、その利用に供された後にその土地が耕作の目的に供されることが確実と認められないとき。
まとめ
農地法第5条の手続きが完了後に必ず地目変更登記をやらずにいると、今回のような話に巻き込まれてしまいます。実際法律でも「土地の所有者は、地目に変更が生じた日から1ヶ月以内に土地地目変更登記を申請しなければなりません。(不動産登記法第37条第1項)。この登記の申請を怠った場合には、10万円以下の過料に処されることがありますので注意が必要です。(不動産登記法第164条)」となっています。
意外と地目を変更していないケースが多いのですが、将来的に法律も改正される可能性もあります。数万で済む手続きですので、農地法第5条の手続きをした際には地目変更をしておくことをお勧め致します。
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