一般の個人が、広い土地を所有していて、なるべく高く売却したいとの考えから「土地を分割して売却する。」というケースがあります。実はこの行為は、法律と税金の点から注意しなければならない点があります。どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
目次
1.自分の土地を分割して不特定多数の方に売却することは何故いけないのか?
2.無免許事業を行った者に対しての罰則規定
3.無免許事業者にならないように、自分の土地を売却する方法とは?
4.税法上での要注意!「まだ土地代を受領していないのに何故?」
1.自分の土地を分割して不特定多数の方に売却することは何故いけないのか?
宅地建物の売買。交換または宅地建物の売買・交換・貸借の媒介(仲介)・代理業務を行う場合には、宅地建物取引業(以下「宅建業」という)の免許が必要です。広い土地を所有していて一般の個人が、区割りして不特定多数の方に売却しようとする場合には、宅地建物取引業法違反として無免許事業者としてみなされてしまいます。1年に2回以上不特定多数の方に売却する行為は、反復継続性があると判断され法律違反になってしまうのです。この反復継続性は、現在の状況のみならず、過去の行為並びに将来の行為の予定及びその確実性の度合いも含めて判断されます。また、1回の販売行為として行われるものであっても、区画割りして行う宅地の販売等複数の者に対して行われるものは反復継続的な取引に該当します。
2.無免許事業を行った者に対しての罰則規定とは?
無免許事業を行った個人に対しては、「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(宅建業法第79条)、法人に対しては、「1億円以下の罰金刑」(宅建業法第84条)と厳しい規定が置かれています。なお、無免許事業者が行う宅地建物取引に正規の免許事業者が媒介(代理)をした場合も無免許事業者として扱われる。その場合、無免許事業者が罰せられることはもとより、媒介(代理)をした宅建業者も行政上の処分、また無免許事業の幇助犯(ホウジョハン)(刑法第62条・同条第63条)として処罰される可能性があるので注意が必要です。
3.無免許事業者にならないように、自分の土地を売却する方法とは?
広い土地を持っている一般の人が、土地を売却する際に無免許事業者にならないためには、「一般の人が宅建業者(=不動産業者)に一括で売却し、業者が分譲する方法です。」
この場合、代金決済及び引渡は、最終取得者が決定して代金全額を支払うまでは留保する、いわゆる「直接移転取引」は認められます。
直接移転取引方式の場合、「当該宅地又は建物について、当該宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他の契約であって当該宅地又は建物の所有権を当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)に移転することを約する。ものを事前に締結している。」ときは宅地建物取引業法違反にはなりません。
また、一括で購入した宅建業者にとって直接移転取引は、所有権を中間者が取得することはないから登録免許税のみならず、不動産取得税も削減できます。
4.税法上での要注意!「まだ土地代を受領していないのに何故?」
「直接移転取引」形式で個人が、広い土地を一括売却した場合には、区割りに関わる費用(分筆測量・造成工事)は一括購入した宅建業者の負担となり個人の売主側で負担する必要がありません。宅建業者側も、所有権移転に関する登記費用・不動産取得税が削減できるメリットがあります。
直接移転取引の場合は、殆どのケースで宅建業者は個人の売主に対して「区割りした土地が売却できた時点で区割りした土地毎に土地代金を支払われます。」
売買手続きが済むと個人の売主にとって、あとは気になるのが入金時期です。一括購入した宅建業者がエンドユーザーに幾らで売却しようが関係ありません。宅建業者と売買金額が確定し売買契約を締結したわけですから、あとは区割りした土地がエンドユーザーに売却出来た時点で税金(譲渡所得)を納付して手取額が計算できるとホッとされる方が多いはずです。
注意しなければならないのは、実は「買主が区割りした土地毎に売却出来た時点で売却代金を受領する。」という点です。
不動産を売却したことによって生じた所得(譲渡所得)に対して所得税・復興特別所得税と住民税がかかります。この譲渡所得の所得税の申告は、資産を譲渡した日の属する年の翌年の2月16日から3月15日と決められています。
ここで、注目することは「資産を譲渡した日」という考え方です。
国税庁のホームページによると・・・。
資産を譲渡した日は、原則として、売買など譲渡契約に基づいて資産を買主などに引き渡した日をいいますが、売買契約などの効力発生の日に譲渡があったものとして確定申告することもできます。
ほとんどの方は、「資産を譲渡した日=土地代を受領して引渡をした日」と思っているのではないでしょうか?
直接移転取引の場合は、分筆した時点で「一括で売主は売却したのだから、買主が分筆することは、売主は買主に売却不動産を引き渡した。」と解釈されてしまいます。
次の判例のとおり土地代を所有者に支払われなくても、区画割りされると引渡があったと認定されたケースです。
本件土地は、本件契約書に記載された引渡しの時期に関する条項の文言にかかわらず、本件契約の締結時に引渡しがあったと認定した事例
▼ 裁決事例集 No.74 – 78頁請求人は、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、その資産の支配の移転の事実に基づいて判定した当該資産の引渡しの時により判定すべきところ、1請求人は所有権移転登記に必要な書類を引き渡していないこと、2契約書上、売買代金の全額の支払いと同時に所有権移転及び引渡しを行うこととなっており、また、違約条項があることから契約破棄が理論上可能であることなどから、本件土地に係る譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は平成17年ではないと主張する。
しかしながら、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、その年において収入すべき金額とされているところ、譲渡者による資産の引渡しがあれば、通常、所有権も移転しているものと考えられ、かつ、譲渡者が資産を引き渡した時には、相手方に対してその譲渡代金を請求できることが確定的となり、譲渡代金相当額を収入すべき金額と認識し得る状態とみることができるから、収入金額の収入すべき時期は、原則として、その所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものと解するのが相当である。
そして、その引渡しがあった日の判定に当たっては、必ずしも売買契約書上の引渡しの時期に関する文言にとらわれることなく、本件契約と別件契約はもともと一括の契約であるか否かなどの取引諸事情、契約内容及び買主がその資産の使用を開始した時期などを総合的にみて、実質的にその資産に対する支配管理の変動があった時期がいつかという観点から判断するのが相当である。
本件買受会社は、本件土地及び別件土地を一括して買い受け、本件開発区域の一団の土地の一部として、宅地造成をすることを予定していたと認められる。また、請求人は、本件買受会社の開発行為に全面的に協力する旨を約した上で契約し、本件契約の直後に同社に開発行為施行同意書を提出していること、仮登記以後の本件土地の危険負担等は、同社が負うことになっていることからすると、請求人と本件買受会社の間では、本件契約の締結時に本件土地の支配管理が請求人から本件買受会社に移転する旨の合意があり、本件買受会社は本件土地の使用収益が可能となったものと認められる。そして、本件開発区域の造成工事は、平成17年10月初旬に着工された上、請求人ら地権者の立ち入りもできなかったことから、本件買受会社が現実に使用収益を開始し、実質的に支配管理の移転があったと認められる。
以上のことからすると本件土地の譲渡の時期は平成17年10月初旬とするのが相当である。平成19年11月14日裁決
まとめ
直接移転取引で売却する方法は、「区割りした土地が売れなくても売主は、売却したとみなされ譲渡所得の申告をし納税しなければならない。」ことを意味します。簡単に言ってしまうと「手元にお金が無いのに税金を払わなければならない。」ということになります。何のために売却したのか?本末転倒な話になってしまいます。
解決方法としては、売主が宅建業者と売買契約を締結するときには、分筆測量をして各区画ごとに売買契約を締結すれば良いのです。しかしながら、注意しなければならない点はあります。1番目は、買主の宅建業者と区割りについて十分に打合せをすることが大事です。2番目は、区画毎の売買契約手続きとなりますので売却に時間がかかってしまった場合、宅建業者が途中で撤退してしまう可能性もあるということです。そうならないためには、「売れ残りそうな区画は、絶対に作らない。」ということが大事ではないでしょうか。
本情報は、法律・税務・金融などの一般的な説明です。個別の具体的な判断や対策などは専門家(弁護士・税理士など)にご相談ください。
オフィスSANOは、相続財産(金融資産 & 不動産)の問題はもちろんのこと、不動産問題について『知っていると得すること』・『知らないと損すること』に重点をおいて情報を発信してまいります。
どうしたらよいか分からない時は、不動産問題解決ナビゲータ オフィスSANOまでお気軽にご相談ください。