当社にこんな相談がありました。相談者のAさんは、5年前に母親が亡くなり、父親も3年前に亡くなったとの事。相続人は、Aさんを含めて3人です。実家は、現在の住まいから車で約2時間かかる遠方にあり、建物自体が、かなり老朽化していて相続人全員が既に持ち家もあり、住宅ローンの残っていたので実家をわざわざ改修して住むことを選択する相続人はいませんでした。ましてや固定資産税等の負担も経済的に厳しいと言うことで相続人全員が「相続放棄」しました。

ところが、最近の異常天気の影響で「実家の建物が一部傾いて危ないので至急対応するように。」と市役所から連絡が入りました。確かに「空家対策等の推進に関する特別措置法」が施行された後の話だったので、相続人が相続したのであれば何かしらの対応をしなければならないと考えますが、「相続放棄」した後なのに対応する必要があるのでしょうか?

そこは、やはり法律!管理責任からは、逃れることは中々難しいのが現状です。具体的には、どういうことでしょうか?

目次

1.「空家対策等の推進に関する特別措置法」とは?
2.「特定空家等」とは?
3.「相続放棄」とは?
4.「相続放棄」したのに何故、行政機関から連絡がきたのか?

1.「空家対策等の推進に関する特別措置法」とは?

2016年5月26日に「空家対策等の推進に関する特別措置法」(以下「特措法」という)が全面施行されました。この法律の立法目的は、問題のある空き家への対策をとるとともに活動できる空き家の有効活用を行うことにある。注目は、「特定空家等」に対しては、除却・修繕・立木竹の伐採等の措置の助言、勧告、命令が可能になりました。さらに、要件が明確された行政代執行の方法により強制執行が可能となりました。(特措法第14条)

[「国土交通省ホームページ」より参照]

2.「特定空家等」とは?

  • 倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある状態
  • 著しく衛生上有害となるおそれがある状態
  • 適切な管理が行われないことにより、著しく景観を損なっている状態
  • その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

以上の状態にある空家等を「特定空家等」をいう。(特措法第2条第2項)

[「国土交通省ホームページ」より参照]

3.「相続放棄」とは?

「被相続人の財産のすべてを放棄し、一切の財産を相続しないこと。」をいいます。

4.「相続放棄」したのに何故、行政機関から連絡がきたのか?

Aさん他2人の相続人は、「相続放棄したのに、何故そんなことをしなければならないのか!」私も含めて全員がそう考えていました。法律は違いました。

相続放棄したとしても、それによって相続人が存在しない場合は法定相続人は、その不動産の管理をしなければならないと民法で規定されているのです。「相続財産管理人」を申立して管理義務から解放される手続きもありますが、別の機会で書いてみます。

 

■民法940条
相続の放棄した者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることが出来るまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

まとめ

管理義務を怠った場合、その間に放置している建物が倒壊して隣家に損害を与えてしまったり、屋根等が飛んで通行人に当たったりして怪我など障害を負わせてしまうと、放棄した相続人が管理義務違反で多額の賠償金を負ってしまう可能性があるということになります。安易な手続きは、要注意です。

最後に今回のテーマは盲点でした。知らなかった専門家もいらっしゃいました。今後も知られていないテーマを優先に書いていこうと思います。

 

本情報は、法律・税務・金融などの一般的な説明です。個別の具体的な判断や対策などは専門家(弁護士・税理士など)にご相談ください。

オフィスSANOは、相続財産(金融資産 & 不動産)の問題はもちろんのこと、不動産問題について『知っていると得すること』・『知らないと損すること』に重点をおいて情報を発信してまいります。
どうしたらよいか分からない時は、不動産問題解決ナビゲータ オフィスSANOまでお気軽にご相談ください。