特に店舗並びに事務所などの事業用建物賃貸借契約の場合、貸主と借主ともに法人ですと「お互いに会社が倒産したらどうなるのか?」と不安を抱いている貸主が多いのではないでしょうか?
前回のブログでは、賃貸借契約における借主側からよくある質問として「敷金と保証金の違い?」について書きました。今回は、貸主側からよくある質問として「法人である借主が倒産した場合の保証金の取り扱い?」や「賃貸借契約自体の取り扱い?や原状回復 など」についてまとめてみました。

目次

1.賃貸借契約の取り扱い
2.敷金・保証金の取り扱い
3.原状回復費用
4.貸主からの積極的な契約解除は要注意!?

1.賃貸借契約の取り扱い

(1)財団債権と破産債権

借主が破産してしまい以下の費用項目があった場合には、「全額回収できるかどうか?」貸主にとっては気が気でないありません。

1)未払い賃料
2)未払い共益費
3)未払い水道光熱費
4)原状回復工事費用
5)保証金償却費

などです。以上の項目は、「財団債権※1」「破産債権※2」の2つの債権に分かれます。
上記の項目の中で 1)~3)では、破産手続開始決定前のものは「破産債権」に、破産手続開始決定後のものは「財団債権」となります。4)~5)は、破産手続開始決定後に発生するので、「財団債権」と区別されます。

※1「財団債権」とは、破産手続き開始決定後の債権。破産財団から随時弁済を受けることができます。
※2「破産債権」とは、破産手続き開始決定前の債権

賃貸人は、破産管財人に対し、相当の期間を定めて、「賃貸借契約を解除するのか?或いは、契約の継続を選択するのか?」を催告して回答を求めることができるものとされています。催告期間内に破産管財人から回答がない場合は、賃貸借契約は解除されたものとみなされます。

破産法 第53条 (双務契約)

双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条 前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項 前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。

[ウィキブックスから引用]

(2)途中解約予告期間特約等の効力

通常の賃貸借契約の条文の中に「途中解約予告期間特約・敷金放棄特約・違約金特約など」が定められています。

① 途中解約予告期間特約事項
賃貸借契約を途中解約をする場合には一定の予告期間を設けて解約予告をしなければならず,それをせずに途中解約する場合には,その予告期間分の賃料を支払わなければならないとする特約のことをいいます。

② 敷金放棄特約事項
賃貸借契約を途中解約する場合には,敷金返還請求権の一部または全部を放棄するという特約のことをいいます。

③ 違約金特約事項
途中解約する場合には一定の違約金を支払うという特約のことをいいます。

破産管財人の判断に委ねられるようですが、実務的には「ない袖は振れぬ。」というのが現状のようです。

2.敷金・保証金の取り扱い

敷金(保証金)は、賃貸借契約における賃借人の債務を担保するものなので、賃貸物件の返還されるまでに生じた「未払賃料・未払い共益費・水道光熱費・原状回復費用など」を控除して、なお残額がある場合は、破産管財人に返還することになります。

問題は、敷金(保証金)では賄えなかったケースです。当然、賃貸人が破産管財人に請求するのですが、「破産債権」は、配当手続の対象となるため一般的には数%程度の配当となってしまいます。そのため、賃貸人としては、賃借人に対する債権の充当は「破産債権」から先に保証金を充当していくことになります。最終的に未回収の「財団債権」は、破産管財人に請求することになります。

その場合、破産財団に余力があれば財団債権全額の弁済を受けることは可能となりますが、破産財団に余力がない場合には、財団債権の一部しか弁済を受けられないケースや、弁済を全く受けられないケースもあります。

3.原状回復費用

破産手続開始決定後に破産管財人により賃貸借契約が解除された場合は、原状回復は破産管財人が行うべきものですが、破産財団に原状回復費用が無いケースが殆どなので、破産管財人が原状回復工事を行うケースはないようです。その場合には、原状回復工事相当額は「財団債権」となります。

また、気をつけなければならないのは、物件内に残されたリース案件です。例えば、飲食店をやっていた場合には、レジ・厨房設備・冷凍庫などです。リース会社と借主・破産管財人を交えて早めに協議しておくことが必要です。

4.貸主からの積極的な契約解除は要注意

次の新しい借主が決定している事情があるなら別ですが、やみくもに賃貸人自ら賃貸借契約を解除してしまうと,破産管財人との交渉の余地がなくなってしまい,最悪のケースは、原状回復等を全て賃貸人の負担で行わなければならなくなってしまいます。

賃貸人の側から積極的に賃貸借契約の解除は、注意が必要です。

 

まとめ

借主が倒産してしまった場合には、賃貸人の損害を最小限にするためにも破産管財人が確定した時点で迅速に交渉と合意を取り付けることが大事です。敷金(保証金)の全額没収で割り切り、速やかに新しい借主を募集する考えが最善の策ではないでしょうか?

さらに、貸主にとって大切なことは、契約期間中賃料が支払いが1回でも遅延した時点で早めの対策をすることです。個人商店のような規模で経営している借主は、意外と貸主から言ってあげた方が良いケースもあります。誰も賃料の支払いを踏み倒そうと考えている経営者はいません。時間が経過すればするほど経営状態が悪くなってしまい、約束を守らないことも平気になってきます。多少余力がある状況なら、話し合いも出来るのではないでしょうか?

 

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