物納は、あくまでも相続税の例外的納付方法であり、誰でも認められるものではなく、延納によっても金銭で納付することができない場合にのみ、その困難な金額を限度として一定要件の下で認められるものです。
国税庁の資料によると、平成27年度の物納申請は130件・69億円です。処理(許可・取り下げ等・却下のいずれか)は、111件・46億円となっており、処理未済が88件・70億円とのことです。注目すべきは、処理未済の件数・金額とも前年度比より増加している点です。物納を考える場合の注意点は?

目次

1.「物納財産の収納価額」とは?
2.「物納適格財産」とは?
3.「収納価額の見直し(改訂)」とは?
4.「相続時発生時の価額と見直し後の価額」どちらが有利?
5.「特定物納制度」とは?

1.物納財産の収納価額とは?

物納財産の収納価額(国が引き取る金額)は、原則として「課税価格の計算の基礎となったその財産の価額」(相続税評価額)となります。ゆえに、小規模宅地等の特例の適用を受けた場合には、適用後の金額(50%または80%の評価減後の金額)となります。相続税を安くする目的と高い金額で国に引き受けてもらう目的と真逆の関係になります。

この場合、原則として、相続又は遺贈により取得した時に物納許可時の状態で存在したものとして、その取得した時における価額によりその収納価額を定めることとしている。

2.「物納適格財産」とは?

物納適格財産と認められるためには、以下の条件を満たさなければなりません。

(1)   物納財産が処分(売却)するまでの管理や実際の処分手続きが容易な財産であること。
(2)   境界について係争中でないこと。
(3)   質権・抵当権等の設定がないこと。
(4)   共有財産でないこと。
(5)   譲渡に関して法令に特別の定めのある財産でないこと。

3.「収納価額の見直し(改訂)」とは?

相続発生時から収納時までに時間が経過しており、相続発生時と比べて「収納の時までに当該財産の状況に著しい変化を生じたとき」は、収納価額の見直し(改訂)が行われます

「収納の時までに当該財産の状況に著しい変化を生じたとき」とは、例えば、次に掲げるような場合をいうものとする。(昭57直資2-177、平7課資2-119・徴管5-5改正)
(1) 土地の地目変換があった場合(地目変換があったかどうかは土地台帳面の地目のいかんにかかわらない。)
(2) 荒地となった場合
(3) 竹木の植付け又は伐採をした場合
(4) 所有権以外の物権又は借地権の設定、変更又は消滅があった場合
(5) 家屋の損壊(単なる日時の経過によるものは含まない。)又は増築があった場合
(6) 自家用家屋が貸家となった場合
(7) 引き続き居住の用に供する土地又は家屋を物納する場合
(8) 震災、風水害、落雷、火災その他天災により法人の財産が甚大な被害を受けたことその他の事由により当該法人の株式又は出資証券の価額が評価額より著しく低下したような場合
(注) 証券取引所に上場されている株式の価額が証券市場の推移による経済界の一般的事由に基づき低落したような場合には、この「その他の事由」に該当しないものとして取り扱うことに留意する。
(9) 相続開始の時において清算中の法人又は相続開始後解散した法人がその財産の一部を株主又は出資者に分配した場合(この場合において、当該法人の株式又は出資証券については、課税価格計算の基礎となった評価額からその分配した金額を控除した金額を収納価額として物納に充てることができる。)
(10) (1)から(9)まで掲げる場合のほか、その財産の使用、収益又は処分について制限が付けられた場合

[国税庁ホームベージ~第43条《物納財産の収納価額等》関係~]

4.「相続時発生時の価額と見直し後の価額」どちらが有利?

相続発生時に「貸家建付地」又は「貸宅地」の状態で、近い将来に立退き等で自用地(更地)になる予定の土地があれば、その土地を物納財産として、低い評価で相続税負担をし物納で収納される時に自用地として収納価額が改訂され、高い価額で相続税に充当できます。

【事例】
①相続発生時
(1)貸家建付地 3,000万円(自用地)x(1-60%(借地権割合)x30%(借家権割合))x100%(賃貸割合)=2,460万円
(2)貸家 500万円(自用家屋)x(1-30%)=350万円 合計2,810万円
②借家人の立退き費用:500万円
③収納価額
著しい状況変化に該当し、収納価額が改訂される。
(相続発生時)2,810万円→(3,000万円(自用地)+500万円(自用家屋)=3,500万円
④有利不利判定
3,500万円(改定収納価額)-2,810万円(相続発生時の価額)=690万円>500万円(立退料)
※この場合は、改訂収納価額と相続発生時価額の差額が立退料を上回っているので、自用地として物納する方が有利となります。

5.「特定物納制度」とは?

平成18年度税制改正により、平成18年4月1日以後の相続開始により取得した財産に係る相続税を対象として、延納の許可を受けた相続税額について、延納条件を変更してもなお延納を継続することが困難となった場合には、一定の要件により延納から物納への変更することができることとなりました。
これを「特定物納制度」といいます(相続税法48条の2)。
特定物納制度には、次のような要件が必要です(相続税法48条の2第1項、2項、5項)。
(1) 特定物納申請を行うときに、延納条件の変更を行ったとしても、延納によっても金銭で納付することが困難な事由があること及びこの延納によっても金銭で納付することが困難な金額を限度とすること
(2) 延納許可に係る相続税の申告期限(相続開始があったことを知った日の翌日から10か月目の日)から10年以内に申請されること
(3) 特定物納申請書及び物納手続関係書類を所轄税務署長に提出すること
(4) 特定物納制度が利用できるのは、特定物納申請の日までに分納期限の到来していない延納税額に限られること

[国税庁ホームページ 参考]

まとめ

以上のことから、ある程度の期間を設けて対策していく必要があるのではないでしょうか?

本情報は、法律・税務・金融などの一般的な説明です。個別の具体的な判断や対策などは専門家(弁護士・税理士など)にご相談ください。

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